「……詫びる言葉は王族にはないんだ。今のわたしは、油屋ではなく皇太子だから、この国では王族は自分を否定する言葉は口に出来ない。だが、友人の雪華には対等の口をきく権利を与えよう。」

雪華の片方の眉だけが、ぴくりと上がった。少し落ち着いて、サクルの立場を思い出したようだ。

「……友人としてなら、少しの間ここにいてもいい。」

「君はだれよりも大切な、かけがえのない友人だ。」

素直に喜ぶサクルを前に、雪華はやっと表情を崩した。
大江戸で見た雪華とはまるで別人のようだと思う。様式にのっとって生きていた花魁は、まるで弱い風にすら身をそよがせるほど儚く見えたのに、ここに居るのは強い意思を持った黒い瞳が印象的な青年だった。思い通りにならないしなやかな獣が、息を詰めて自分だけを見つめている。

「どうすれば君を手に入れられるか、笑いかけてもらえるのか、ずっとわからなかった。だから君を金で買おうと思った。でも……、今ならわかる。君が欲しかったのは物ではなかったのだね。ただのサクルとして心が求めるままに、素直に接すれば良かった。胸を裂いて、君に本心を見せられたらと思うよ。そうすれば君にも、わたしがわかる。」

「困ったなぁ……」

由綺哉は手を伸ばし、サクルの頬を挟んだ。

「いつか会いに来ようと思っていたのに。突然現れて、うんと驚かもりだったのに……予定が狂ってしまった。」

「え……?」

「逢いたかったと言ったんだ。」
奇想天外なお話しの番外編は、割と普通のらぶろまんす?でした。ツンデレの由綺哉のキャラは初めて書いたような気がします。この後、日本に帰り澄川財閥に入社して、東会する話へと続きます。
通いなれた洋館の螺旋階段を慌ただしく駆け上り、澄川財閥の直系、澄川東呉(すみかわとうご)は当主の部屋を訪ねた。大学を卒業してから、系列会社に入社以来既に数年の時が経っている。
少年の面影を残し、東呉は26歳になっていた。

「柳川さん。じいちゃんの具合はどうなの?」