たそうな様子を見せていた。大地はそのことに気づいていたが、あえて無視して言葉を繋ぐ。
「それに、今晩はお楽しみもあるしね」
「お楽技術轉移しみって?」
「それはまだ秘密」
 美咲は口をとがらせた。
「じゃあ、船内を探検して、それからお昼寝じゃダメ?」
 おねだりするようにそう言うと、漆黒の瞳をまっすぐに向けて、ちょこんと首を傾げて見せる。こんな顔をされては降伏せざるをえない。敵わないな、と大地は胸の内で密かに苦笑した。
「わかったよ」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
 美咲はパッと顔を輝かせると、ベッドに寝そべる大地に飛び込んで抱きついた。幸せな重みを感じながら、大地は彼女と目を見合わせ、絹糸のようななめらかな黒髪を指に絡めて慈しむ。
 外では大きく汽笛が鳴り、ゆっくりと船が動き出した。

 結局、船内探検に時間を費やしすぎて、昼寝の時間はほとんど取れなかった。
 大地は部屋に戻ってから一時間ほど眠ったが、美咲は興奮のためか一睡もできなかったらしい。それでもまだ元気いっぱいで、おなかが空いたから何か食べに行こう、と起き抜けの大地に容赦なくせがむ。
 これだけはしゃいでいたら、島に着く頃には疲れ切っているかな――。
 足どり軽く船内レストランへ向かう美咲の後ろ姿を見ながら、大地は苦笑しつつも優しく目を細めた。

「んー……眠くなってきた……」
 予想どおりだった。
 遅めの夕食を終えてから部屋に戻ると、美咲はとさせ、吸い寄せられるようにベッドに倒れ込もうとする。しかし、大地は背後から抱き止めて、シーツに触れる寸前でそれを阻んだ。
「まだ寝ちゃダメだよ」
「どうして?」
「お楽しみがあるって言ったの忘れた?」
 眠くて不機嫌になっている美咲は、口をとがらせて非難するように大地を睨んだ。今の彼女にとって、眠らせてくれない相手は誰であろうと敵である。しかし、大地はそんなことなどお構いなしに、「おいで」と言って彼女の手を通渠引くと、半ば無理やり部屋の外へと連れ出した。

「どうです? なかなかのものでしょう、溝端さん」
「これは……妻と息子にも見せてやりたいですな」
 扉を開けて外に出たところで、男性二人が夜空を仰ぎ見ながら会話して